GLENROYAL of Scotland

       

No.006

変わりゆくモノと変わらぬモノ。
クリエイティブディレクターが愛する逸品。

「BEAMS」クリエイティブディレクター中村 達也さん

時を越えてアップデートされた、
思い出のグレンロイヤル。

BEAMSのクロージング部門を統括する中村さんが、駆け出しのバイヤー時代に魅せられたというクラッチバッグ。20数年の時が経ち、今新たにリリースされることになった経緯とは? 中村さんの想いとこだわりを語っていただきました。

第一線を走り続けることの意義。

━クリエイティブディレクターの仕事とやりがいを教えてください。

さまざまな商品企画やバイイングから、カタログなどのイメージ作りまで、ドレスクロージング全体をディレクションしています。これまで長くバイヤーの仕事をしてきたのですが、自分が専門としてやってきたことをさらに俯瞰的な立場で続けているような感じです。


多くの方が経験を重ねるにつれて、一線から退いてマネージメントのようなポジションにいってしまいます。僕は、ずっと続けてきたことの経験を生かしながら、現場=お店に近いところで仕事をすることができています。それが、一番のやりがいなのかもしれません。


もとから現場が好きなので、どんなに忙しくても、どれだけ短い時間であろうとも、一日に1度はお店へ顔を出すようにしています。データだけでは、見えてこない部分が必ずあるので、どういう風に売れているのか、どういう風に見せなければいけないのか、が見えないとダメだと思っています。店舗数が増え、規模が大きくなったからこそ、やらなければいけないという使命感もあります。


イメージ

業界以外の人にも、洋服の魅力を伝えたい。

━中村さんのブログ『ELEMENTS OF STYLE』は、どういうモチベーションで続けられていますか?

今は一週間に約1回のペースでアップしているのですが、やっぱりネタに困る時はあります。ブログに関して思うのは、自己満足の人が多いですよね。自分勝手に発信するだけで、読んだ人がどう思うか、ということまで深く考えていないというか……。『ELEMENTS OF STYLE』は、一方通行にならないよう、読者にとってわかりやすいように、ものすごく細かく書くようにしています。


意外に、こういうブログは少ないんですよ。トップランキングに入っているブロガーさんの記事を読んでも、ともするとFacebookなんかで済むような内容のモノもありますよね。だからこそ、読み物としてきちんとやりたいという想いはありました。最初から長い内容でやってしまったので、今さら短くできないというのもあるんですけどね(笑)。


そういうわけで、「ファッション業界以外の方にもわかりやすい」というのが自分の中でのテーマです。だから、なるべく業界の人しか知らないような専門用語を使わないようにしています。だれにでも、洋服の魅力が伝わるような目線で書くように心がけています。


イメージ

「こうしたら良くなる」という感覚が大切。

━洋服以外で、良いインスピレーションを与えてくれるものはありますか?

美味しいモノを食べることが好き。“美味しく感じる”というのは、料理の味はもちろん、サービスも重要な要素だと思います。サービスがダメだと、どんなに料理が美味しくても、マイナスに感じてしまうことがありますよね。いろいろなご飯屋さんへ行くと、サービスにしても料理にしても、もう少し勉強して「あと一歩踏み込めば良くなる」と感じるお店もあります。本当にちょっとしたことなんですよね。「もうちょっとこうしたら」の部分に気づいていないのか、気づいているのにやらないのか、もしかしたら、現状に満足しているのかもしれません。


それは、置き替えると僕のやっている洋服にも言えることです。すべての人にとって100%のモノというのは存在しないのですが、「こうしたら良くなる」という部分に関しては絶対に妥協しません。洋服業界には、“ノリ”という文化があるのですが、私にはありません(笑)。

これ以上求めてもできないという部分は飲み込みますが、その技術があればここまで到達できる、というリクエストに関しては厳しいかもしれないです。でも、そこで諦めてしまうメーカーはあまり伸びない。出来ない!と怒られることも何度もありましたよ。「こうしたら良くなる」に応えてくれて、時間をかけて一緒にモノづくりできるメーカーさんは、より良い結果が出ますし、商売が長く続くことも多いです。


20年前から変わらない、モノづくりのクオリティ。

━愛用されているグレンロイヤルはいつ頃のモノですか?

20数年前、駆け出しのバイヤー時代に購入しました。その当時コレクションにあったブリーフケースです。現行のモノよりも厚いブライドルレザーを使っていて、かなり年季が入っています。当時はいわゆるクラッチバッグが今よりも人気がなかったので、あまり売れませんでした(笑)。でも、イタリア出張の時に持っていくと、イタリア人によく褒められました。かなり使い込みましたが、ブライドルレザーなのでビクともしない。糸が外れた部分を自分で縫ったりはしましたが、切れるようなことはないですね。金具の使い方がイギリスのバッグらしくて、今見ても新鮮です。今使うには、少し横のサイズが大きいのですが、捨てられずにずっと持っています。


正直に言うと、昔のグレンロイヤルは色気がなかったんです(笑)。本当に真面目なスコットランドの鞄屋さんという印象でした。質実剛健なモノづくりでクオリティは高かったのですが、なかなか目立つ存在ではありませんでした。それからイタリアモノが全盛になってきて、英国モノから離れていたんですが、昨今のクラシック回帰で、昔からある英国の雰囲気がまた新鮮に感じるようになりました。英国系のブランドでも廃業してしまう所が多い中、グレンロイヤルは昔から変わらずモノづくりをしていて、アーカイブもたくさん持っています。今の時代に合わせてリサイズをしてくれるなど、別注に対応してくれる柔軟性があるのも良いですね。


イメージ

昔ながらの“英国らしさ”が、現代のスタイルには必須。

━そういった背景もあって、今回の別注が実現したというわけですね。

このブリーフケースを持っていたので、ベースにしたら理想的な形が作れるんじゃないかという期待はありました。それに、英国のメーカーは、あまり昔のモノを捨てたりしないので、型紙なんかも残っているんですよ。サイズは少し横に大きいのでリサイズし、今の時代感に合わせてデザインをアップデートしました。一番のポイントは、英国にある昔ながらの真鍮バックルを使っていること。以前は他のメーカーさんも、こういう金具の付いたデザインのモノを作っていたんですよ。あと、クラッチバッグって持っていて腕が疲れることもありますので、2WAYで使えるハンドル付きのタイプも用意しました。


トレンドはクラシック回帰なのですが、みなさんはイタリアの服を着ることが多いと思うんですよ。だから、今はイタリアっぽい服に、あえて英国らしいこういうバッグを合わせてミックスするのが良いと思います。全身イタリアモノで艶っぽいスタイルは少し古くみえます。とはいえ、英国のカントリーみたいなスタイルでまとめるのではなく、イタリアっぽい服装にバブアーやトレンチコートを着るからこそ、全体のコーディネートが成立するのだと思います。僕が今日着ているスーツもナポリのモノですが、生地は「カバート・クロス」という昔からあるイギリス発祥の生地を使っています。全身イタリアンみたいな艶っぽいスタイルではなく、クラシックな英国モノで中和させてあげるというのが、今のスタイリングの正しい方向性だと思います。


イメージ

イメージ

使い続けた先を、“期待できる”モノを選ぶ。

━モノを選ぶ際に、どういう部分にこだわりますか?

長く使いたいというのはあります。なので、たとえば革小物を選ぶ時なんかは、表だけじゃなくて、裏のライニングの素材にどんなものを使っているかというところも見ますね。ウィメンズと違ってメンズは使い込むことが多いので、ある程度使ってくたびれても、安っぽく見えないというのが重要なポイントですね。そこは、“適当に作られたモノ”と“ちゃんとつくられたモノ”で非常に差が出る。たとえば、安物の革は経年変化してみすぼらしくなりますが、良い革を使った靴なんかは、手入れをしていくとだんだん良くなってくる。ベルトなんかもそうですね。パッと見の外見ではなくて、使っていくとこうなるんだろうなというのを、ある程度予想してモノを選びます。時代感があるので、今は使わずに自宅で眠らせているモノもたくさんあるのですが、中でも英国のモノは長く持っていることが多いです。カシミアのマフラーやニット、靴なんかは古くなっても絶対にいつか使えますからね。


「BEAMS」クリエイティブディレクター 中村 達也さん

photoKenichirou Higa textK-suke Matsuda

「BEAMS」クリエイティブディレクター
中村 達也さん

「BEAMS」クリエイティブディレクター 中村 達也さん

1963年生まれ。新潟市出身。母の実家が生地商、父方の祖父は靴職人という環境に生まれる。大学在学中に「BEAMS」でアルバイトをはじめ、卒業と同時に入社。渋谷店に配属される。その後、「BEAMS F」の店長、バイヤーを経て、現在はビームスのクロージング部門を統括。その深い知識から、幅広い層に支持され、さまざまなスタイル本の監修も手がける。自身の公式ブログ『ELEMENTS OF STYLE』は、業界内外を問わず多くの人に愛読されている。

photoKenichirou Higa textK-suke Matsuda