No.003
クリエイティブ・ディレクターが長く愛する古くから受け継がれる
英国スタイル
「Drake's」 クリエイティブ・ディレクターマイケル・ヒルさん
彼が愛用するのは グレンロイヤルのジョッターと 呼ばれるメモケース。
それを彼流の意外な使い方で愛用。
ネクタイやマフラーを中心としたハイクオリティアイテムを展開するドレイクス。
今回はGINZA SIXにあるBRITISH MADE GINZAで初のショップ・イン・ショップオープンで来日したクリエイティブ・ディレクターであるマイケル・ヒル氏にインタビューを行いました。
ネクタイデザイナーの父から 受け継がれたDNA
━現在クリエイティブ・ディレクターですが、もともとファッションが好きだったのでしょうか?
昔からメンズウェアやそれに付随する生産背景に興味がありました。それは父親の影響かもしれません。父親はネクタイを作る仕事をしていて、私はいつも学校が休みの土曜日には父親と一緒にネクタイの生地を持って、いろいろなお客様のところを回っていました。父の隣でネクタイ作りのノウハウ、ビジネスの進め方などをいつも見つめていました。クルマの助手席に乗るといつもネクタイの素材であるシルクの香りがして、それは今でも忘れません。その経験が現在の仕事に繋がっています。
仕事ではシーズンコレクションの商品作りを行っていますが、ドレイクスの40年にも及ぶアーカイブの中からインスピレーションを受けることが多いです。休みの日には仕事と趣味を兼ねて古着探しに行くのも日課です。ヴィンテージのネクタイの素材や柄から新しいアイデアが浮かんでくることもあります。
一方で新しいモノにも刺激を受けています。日本では「BEAMS PLUS」、「BLUE BLUE JAPAN」、デニムの「BONCOURA」も好きです。日本のブランドはオーセンティックものと現在のトレンドをうまくミックスしているのがすごくユニークで、興味がわく部分でもあります。日本に来るときは、いつもそういった部分に注目していますね。
使い道は自分が決める
━ご持参いただいたグレンロイヤルの商品ですが、どのような使い方をしていますか?
これはジョッターといって本来はメモを入れるものです。財布ではないのですが、6年前から、財布のようにして使っています。ビジネスカード(名刺)やシャツの襟に入れるカラーキーパー、クレジットカードとお札(紙幣)を入れています。日本のビジネスシーンでは名刺交換を必ずしますよね。交換した後に入れておくと忘れないし、特に気にいっているのがサイズです。14cm×9cmで、ジャケットの内ポケットに必ず入れますが、ちょうどいいサイズ感です。
このジョッターで使われているのがブライドルレザー。私はその質感がすごく好きです。イタリアのレザーは柔らかく、イギリスの代表的なレザーともいえるブライドルレザーはそれと比べると堅い。その堅さが昔からの連綿と受け継がれるイギリスのレザーらしさであり、イギリス人にとって愛着が湧く部分だと思います。
色選びでは、茶色を選ぶことが多いです。使い始めは少し堅いと感じるかもしれませんが、使い込んでいくと経年変化とともに、色合いやツヤ感、触り心地が良くなっていきます。日本では“エイジング”という言葉を使いますが、イギリスではこのような状態のことを“ウェアリング・イン(wearing in)”という表現を使います。直訳すると「良く使い込まれている」、「使い続けている」という意味になります。
財布にはジッパーが付いているものが多いと思いますが、私はコインをほとんど使わず、紙幣とクレジットカードを使います。コインを必要としないので、ジッパーが付いているものは選びません。このジョッターと出会ってからは、便利で絶好のパートナーであり、僕にとって完璧なデザインだと思っています。
使い続けることで良くなるもの
━他に長く愛用し続けているお気に入りのアイテムはありますか?
チャッカブーツやローファーは10年くらい、カジュアルスーツは10年以上着続けています。長く使い続ける秘訣はメンテナンスですかね。スーツは1年に1回はドライクリーニングをしていて、シャツは自分で洗って、自分でアイロンもかけています。
イギリス人はモノを大事にするイメージがあります。ジャケットやニットのひじ部分が破れるとツギ当てをするなど、多くのイギリス人はそれを当たり前のように行います。私の父も毎週日曜になると必ず1時間は靴磨きをしていました。そうやってモノを大切にする理由は、イギリス人は長く使い続けることが良いことだと思っているからです。服や靴だけでなく、住居などは典型的な例で、家は古くなればなるほど価値が上がります。今僕が住んでいるのは築300年くらいですが、それほど古くはありません。実家は築600年くらいですから。
グレンロイヤルとの共通点
━グレンロイヤルとドレイクスのモノ作りは似ていますか?
ドレイクスのハイクオリティな部分がブランドのコアだと思っています。自分たちはいかにして「モノを安く作る」のではなく、いかにして「モノをよく作る」ことをいつも考えています。特にクラシックな部分を大切にしているので、昔ならではの製法が行える機械と職人を抱える自社工場をもっています。
自社工場を持っていることで、ブレイクスルー(新しいアイデアが生まれる)な雰囲気が生まれます。修正が必要であればすぐに修正することができますし、マーケットリサーチをして、市場の動向を反映した商品をすぐに作ることができます。常に進化し続け、お客様の要望にも応えられる環境になっています。
工場、機械や良い職人さんを維持することは大変ですが、彼らがいるからこそドレイクスというブランドは成り立っています。工場があるエリアは300年前にネクタイの生地に使われる絹織物で栄えたところで、昔は多くのネクタイ作りの職人が住んでいた地域です。そういった長い歴史をもつエリアに工場を持つことがドレイクスの長所であり、それが誇りでもあり、強さの秘訣です。
だからこそ私たちはロンドンから離れることは考えていません。人件費が安い工場で作るよりもロンドンで商品を作るとコストは高くなりますが、生産背景がしっかりしている場所で働く人、環境に投資していき、価値を高める。それが自分たちの原点であるので、これからもハンドメイド・イン・ロンドンのネクタイ作りを続けていきたい。
一方、グレンロイヤルもハンドメイド・イン・スコットランドにこだわっていて、1979年創業で、ドレイクスは1977年創業、ともに40年近いストーリーを持っています。お互いに昔からの製法を用いてモノ作りをし、働く職人さんをリスペクトし、いかに「モノをよく作る」ことにこだわるところが凄く似ていると思います。
そんな歴史に裏打ちされたグレンロイヤルは、我々の良きライバルであり同時にリスペクトするブランドです。
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「Drake's」 クリエイティブ・ディレクター
マイケル・ヒルさん
1977年にマイケル・ドレイクによって英国・ロンドンにて創業したドレイクスの現クリエイティブ・ディレクター。
London College of Fashionを卒業後、ロンドンのサビル・ローにある「リチャード・ジェームス」を経て、2002年に創業者であり、彼の父のかつてパートナーであったマイケル・ドレイクのアシスタントとしてドレイクスに参加。マイケル・ドレイクが引退した2010年よりクリエイティブ・ディレクターに就任。
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