No.26
シンガポール随一のシューシャイナーが語る、
マネークリップの機能的デザイン。
「Mason & Smith」代表/シューシャイナージョン・チャンさん
華美で飽きるのではなく、気に入った時の感覚が何十年も続く。
グレンロイヤルの財布はタイムレスなプロダクトです。
シンガポール初となるシューシャインバー「メイソン アンド スミス」をオープンし、2018年にロンドンで開催された「World Shoe Shine Championship 2018」で優勝した若きシューシャイナー、ジョン・チャン氏。今年の9月に「伊勢丹 新宿店」で開催され、多くの靴好きが集結した“世界の靴磨きチャンピオン頂上決戦大会”では悔しくも敗れてしまったものの、靴磨き業界を牽引する一人であることに変わりはありません。今回、ジョンさんの来日タイミングに合わせて、インタビューを敢行。愛用しているグレンロイヤルのお話を伺いました。
ヴィンテージシューズの販売が原点。
━シューシャイナーを志したきっかけを教えてください。
5年前、僕はタイでヴィンテージの革靴を仕入れてシンガポールで売るという仕事をしていました。ところが、質の高い革靴はたくさん出てくるのですが、汚くて状態の悪いものが多かったんです。だから、クリーニングやケアをするために勉強しなければいけないと思うようになりました。当時は、まだシンガポールでも革靴を磨く文化が根付いていないということもあり、フリーランスの靴磨きはいるものの、磨きやリペアを生業にしている方がいなかったんです。僕もユーチューブやインスタグラムを通じて独学で勉強していましたが、そのおかげで日本を始め世界中の靴磨き職人のことを知ることができました。
そういったことも追い風になり、靴磨きをビジネスとしてやりたいと思うようになりました。ちょうどその頃、シンガポールで“シューズウェーブ”が起こり、それまで知らなかった人たちが高級革靴を知るようになったんです。とはいえ、僕のお店で取り扱っている「ジョセフ チーニー」を置いているようなお店もなかったですし、デパートですら登山靴のようなものしか取り扱っていなかったですからね。そこにビジネスチャンスを感じましたし、シンガポールの人たちに良い革靴を履くことの価値や、ケアをして長く愛用するということを伝えたいと思うようになったんです。
シンガポールに革靴のカルチャーを根付かせたい。
━「メイソン アンド スミス」はどんなお店ですか?
今年お店を移転したばかりなのですが、三階建てで一階にはシューシャインバーがあり、仕入れた革靴の販売も行なっています。二階ではヴィンテージの革靴の販売をしており、三階では修理のワークショップを開催したり、オフィスとしても活用しています。最近では嬉しいことにお客様も増えてきましたが、シンガポールはまだまだ設立してから50年の若い国ということもあり、カルチャーが遅れていると感じています。日本にはたくさんのブランドやお店があってどこでも良い革靴が手に入りますし、日本のお客様は革靴のディテールや質はもちろん、靴磨きのプロセスを大事に考えている方が多いです。シンガポールでは、単にお金を出して良い革靴を手に入れたことや、美しく磨き上がったことにだけ満足している方の方が多いです。靴作りや靴磨きにはたくさんのプロセスがあるということをもっと伝えていきたいですね。そういう想いもあって「メイソン アンド スミス」では、積極的にビスポーク職人のトランクショーを開くようにしていますし、来年も三名の靴磨きチャンピオン、「ブリフトアッシュ」の長谷川裕也さんと「ザ ウェイ シングス ゴー」の石見豪さん、「イーズシューシャイン」の杉村祐太さんを招いてイベントをやりたいと画策しています。
日々インプットとアウトプットを繰り返し、技術を高める。
━自分を高めるためにしていることはありますか?
毎週水曜日が店の定休日なので、その日の朝はランニングへ行くようにしています。あと、金曜日と土曜日の夜は“クリエイティブデイ”と決めています。時にはアルコールも入れつつ、インテリアやデザインの本を読んだり、ファッション雑誌を眺めたり、映画を観たり……。
何かクリエイティブなことを考える時間ですね。革靴のことはなるべく考えません(笑)。毎日朝食を7時に取って、8時から10時をリサーチの時間と決めています。世界中の靴磨き職人さんやビスポーク職人さんのウェブサイトやSNSを素早くチェックして、マーケティングやデザイン、シューシャインのことを研究します。その後は、お店がオープンするのでシューシャインの修行が始まります。お客様が僕の扱ったことのない革靴を持って来られた場合には、ディテールや作りを写真に収めて研究します。その繰り返しで技術を高めています。
グッドクオリティかつ“アルゴノミクス”であること。
━モノを購入する際に大切にしている基準はありますか?
僕はたくさんのモノが欲しいというわけではなく、1つか2つ質の高いモノがあればそれでいいという考え方です。1年しか使えないチープな製品よりも、お金が許す限り10年以上愛用できるモノを買いたいですね。たとえば、この革靴は今では珍しいイタリア製の「コールハーン」の一足。元々ヴィンテージで購入したのですが、細かなステッチングなど作りも丁寧で5年以上愛用しています。あと、デザインはもちろん大切ですが、“アルゴノミクス”であることも大事です。これは、デンマーク家具のコレクターのお客様が教えてくれたことで、使い手のことを考えて設計されてあるモノが良いという価値観です。家具だけでなく、あらゆるものに通ずるところがあると思っています。たとえばこの二本のブラシは靴磨きをスタートした頃から愛用しているもので、とても使い勝手が良くてかれこれ5~6年の付き合いになります。「メイソン アンド スミス」で取り扱っているグレンロイヤルのポケットシューホーンもそうですね。ポケットに入る機能的なサイズでデザインも良い。店でもプレゼントやお土産として人気です。
英国らしいタイムレスさと幅広いラインナップが魅力。
━グレンロイヤルの印象を教えてください。
僕の思う英国製品の魅力はタイムレスであること。ともすると、イタリアやフランスのプロダクトのように華美でインパクトのある製品が好きな方には好かれないかもしれないですが、英国製品はたくさんの方々に愛されています。イタリアやフランスの製品と比べてデザインはシンプルですが、だからこそ気に入った時の感覚が何十年も続くのが魅力ではないでしょうか。グレンロイヤルもまさにそんなブランドの一つだと思います。ただ驚かされたのは、歴史のある老舗ブランドにも関わらずラインナップが幅広いということ。靴磨きのイベントで来日した時に、「ブリティッシュメイド 銀座店」でたくさんの製品を実際に見て、どの製品も使い手のことを考えたデザインであることに感動しました。スタッフの方からブランドのストーリーを聞いてさらに好きになりましたね。
シンガポール紙幣も綺麗に収まる、コンパクトサイズ。
━マネークリップ付き財布を選んだ理由を教えてください。
昔からコインが嫌いだったので、大きな財布を持つ必要がなくマネークリップを使っていました。それはコインやカードのポケットがないシンプルなマネークリップだったのですが、使っていく中で人生にはコインとカードが必要な場面があるということを知りました(笑)。そしてたどり着いたのが、グレンロイヤルのマネークリップ付き財布です。コインポケットは付いているものの、コンパクトな設計で出張や旅の時にも便利です。
僕はいつもパンツの左ポケットに入れていますが、ジャケットの内ポケットにも収まるサイズです。カードポケットもたくさんあり、チケットやレシートなどもしっかり入ります。日本の紙幣だけでなく、シンガポール紙幣もはみ出ることがないです。本当にアルゴノミクスなデザインですよね。靴磨きをやっていると手が汚れてしまうので汚れが目立たないものがいいのですが、黒だとつまらないのでネイビーを選びました。財布はユーズド感が出た方がかっこいいと思うのでクリームはほとんど入れず、たまにブラッシングをする程度ですが、ブライドルレザーのタフさのおかげで良い具合に味が出てきました。まだ2年の付き合いですが、これからも長く愛用していきます。
photoTRYOUT textK-suke Matsuda(RECKLESS)
「Mason & Smith」代表/シューシャイナー
ジョン・チャンさん
1992年生まれ。シンガポール出身。
ヴィンテージシューズの販売を機に、独学でシューズのリペアとケアを学ぶ。その過程で出会ったシューシャインに魅せられるようになる。2014年よりホテルなどで靴磨きの経験を積み、2015年にシンガポール初となるシューシャインバー「メイソン アンド スミス」をオープン。
2018年に開催された靴磨きロンドン大会で、チャンピオンの称号を獲得。
https://www.masonandsmith.com
photoTRYOUT textK-suke Matsuda(RECKLESS)