No.32

シューズデザイナーが敬服する、
職人技術の粋を詰め込んだ長財布。

「H.Katsukawa」デザイナー勝川 永一さん

ブライドルレザーは、時を経て伝統になった革新的なレザー。
長く愛用する財布にふさわしい、タフさをそなえています。

シューズブランド「H.Katsukawa」のデザイナー、池尻大橋のリペアショップ「THE SHOE OF LIFE」の主宰、革新的なアプローチのレザーを開発するアーティストと、三足の草鞋で活躍する勝川永一さん。その活動の根底には「天然皮革の魅力を伝えたい」という想いがあり、グレンロイヤルの新たな試みである「GLENROYAL meets CRAFTSPEOPLE」でも、勝川さんの開発したレザーを使用したコレクションを展開しています。今回は、そんな勝川さんのアトリエを訪ね、愛用しているグレンロイヤルや仕事についてのお話を伺いました。

革に対するメッセージを込めた、それぞれの活動。

━様々な活動をされていますが、根底となる想いはありますか?

僕の活動には必ず何かしらのメッセージがあります。たとえば、自分の代表作でもあるニベレザーのプロダクトに関しては、元々廃棄されていた革を使うことで食肉の副産物である皮革への感謝を表現したり、スタイルが確立している紳士靴にこの革を使うことで、「角度を変えれば美しく見えるものがある」ということを伝えています。僕が師事していたポール・ハーデン氏も“履くだけでの靴ではない”ということをメッセージにしていましたので、そういう意味では影響を受けているのかもしれません。革靴のリペアを請け負うお店を作ったのは、革靴が大量生産されている時代に、履きつぶして捨てられてしまうことを危惧したからです。靴修理のお店があれば、消費者とモノとの関係性を提案できるのではないかと思い、修理をして大切に長く愛用することを伝えています。またそれと並行して、天然皮革は自分にとってのモノづくりの根源なので、製品化の有無に関わらず、国内のタンナーさんと一緒に長い期間で企画開発をしています。ニベレザーもそうですし、今回グレンロイヤルさんの企画でコレクション展開をした純白のピッグスキン「オネスティホワイト」も、その過程で生まれた革です。力のあるブランドさんとコラボをすることで、より多くの方々に天然皮革の魅力を伝えることができるので、とても良い機会だと思い、取り組ませていただきました。


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ローテクなモノの魅力を、未来志向で世の中に届ける。

━勝川さんは、天然皮革にどんな可能性を感じられていますか?

どれだけあらゆるものがデジタル化されていっても、僕がやっているローテクなことはデジタル化できないと思うんです。ご飯を食べることと同じで、人間が生身である以上、やはり肌に近い革の質感って気持ちが良いんですよね。衣料品に関しても、どれだけ機能繊維が優れていても、実際に着てみるとコットンのような天然繊維の方が身体に馴染む感覚ってあるじゃないですか。そういう人間らしい部分を伝えていけるのは、天然皮革の役割だと思っています。とはいえ、過去に生まれた伝統的なモノ、たとえばですが、僕がブライドルレザーをマネて作ることに意味はないと思うんです。未来志向で新たなアプローチを考えることで、より多くの人に魅力を伝えていけると思うんですよね。


今回、グレンロイヤルさんとのコラボで使用した「オネスティホワイト」は、そういう志向のアプローチから生まれた皮革です。ピッグスキン自体は昔から色々な製品に使われていますが、革自体の毛穴や自然な質感を生かしたまま、白く染めるのはとても難しいんです。墨田区にあるタンナーさんが根気強く取り組んでくださったおかげで、ようやく実現することができました。天然のやわらかい質感をキープしながら、真っ白に染まっているのは本当にすごいことなんです。ぜひ多くの方々に手にとって魅力を体感していただきたいです。


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色々な素材を試すことで、天然繊維の可能性を探る。

━モノを選ぶ時に、どのような基準を大切にしていますか?

基本的には天然繊維で風合いの良いモノが好きなのですが、あえてそれ以外も積極的に試すようにしています。たとえば、カシミアの良さを当然知っていますが、ここに2%アクリルをブレンドしたら洗濯しやすくなるかもしれないと思って、そういう製品を試してみるとか。都市生活の中では、機能という面が非常に大事になってくるので、比較して天然繊維の可能性を知るためにもできる限り色々な製品にチャレンジして、その境界線を模索しています。それでも、皮革に関しては手に持ったり、肌に触れることも多いので、より天然の質感に近い仕上げの製品が良いなと思いますね。自分が作るシューズは実験の中で色々なアプローチを試していますが、王道の英国靴も好きですね。たとえば、10年くらい前に購入したチャーチのウイングチップは、僕の好きな革靴の一つです。メーカーとしても深い歴史があり、グッドイヤーウェルテッド製法のクラシックなモノづくりで質実剛健に作られています。やはり、自分のルーツでもある英国のプロダクトには好きなモノが多いですね。


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クラフトマンシップと背景の深さが、英国製品の品格になる。

━勝川さんの思う、英国製品の魅力とはなんでしょうか?

スーツを着て、ハットをかぶり、革靴を履く紳士のように、英国のスタイルには伝統があります。そして、そのスタイルを作るために、職人が腕を磨き、技術と素材を進化させてきたという歴史があります。王室文化を確立するために、職人が一生懸命に作ったプロダクトは、その当時は革新的なモノでも、やがて伝統に変わります。


たとえば、グレンロイヤルのブライドルレザーにしても昔は革新的なレザーだったはずなんです。それが時を経て今や英国を代表する伝統的なレザーとして扱われていますよね。そう考えると、伝統と革新のストーリーを持っているのが、英国製品ならではの魅力かもしれませんね。


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革の奥深い魅力を知るきっかけとなった存在。

━グレンロイヤルというブランドの印象を教えてください。

初めて出会った場所は、大学時代に働いていた「シップス」です。当時は財布やカードケース、コインケースがセレクトされていました。何よりも驚かされたのはブライドルレザー。革の表面に白い粉が吹いていたのも衝撃でしたが、調べてみたら、使用していくうちにロウが溶けて馴染んでいくことを知り、「そんな革があるのか!」と感動しました。僕にとって一番始めに皮革というものに触れた時代がその頃でしたので、今思えばブライドルレザーも革製品に関心を持った理由の一つかもしれないですね。どう触れていいのか分からないくらい奥深さのあるレザーの質感で、しかもスコットランドで作られている。グレンロイヤルは、そんなミステリアスな存在でした。


最近ではレディースの製品など、当時よりもラインナップが増えていて、より都市生活の中で天然素材に親しむことができるブランドの一つになったという印象があります。僕の愛用している長財布は廃盤になっていたのですが、後継モデルはコインを入れるジップポケットの端が、より使いやすいようにラウンドになっていました。カードポケットの高さも調整されています。天然素材を生かしながら製品として現代に合わせて進化しているところに、僕の作るプロダクトとも通ずる部分があり、とても共感を持つことができました。


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歴史に裏付けられた強度を持つ、革とプロダクト。

━愛用されているグレンロイヤルの魅力を教えてください。

この長財布は、10年前くらいに上野のアメ横にある革小物のお店で偶然見つけて購入しました。また、一緒にフラップ付きの名刺入れも手に入れました。この名刺入れも今は廃盤になり、デザインがアップデートされていますよね。二点とも、実験的に色々な革小物を使いながらも定期的に愛用していたのですが、どれだけ使っても使えなくなるほど壊れることはありませんでした。革自体もボロボロになったり破けることはないですし、色は褪せても少し磨けば光沢が出るのでみすぼらしく見えることもありません。そもそもブライドルレザーは、コードバンなどとは違って、革の表面をワックスやロウで仕上げているので、工程の中で起毛させている革よりも強いです。元々馬具などに使われていたことからも分かる通り、革が切れることもほとんどないですよね。


そういう意味でも、長く愛用するプロダクトである財布にはうってつけの素材なんです。色褪せはエイジングだと思ってあえてそのままにして、定期的にバッグに使うような乳化性のクリームを塗って空拭きをしているのですが、そのくらいのメンテナンスでもワックスのおかげで十分に輝きを放っています。壊れないモノを作るというのは、商売的には矛盾しています。ですが、英国製品には基本的な哲学として息づいています。それが、僕を含めて多くの方々に愛されている魅力なのではないでしょうか。


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「H.Katsukawa」デザイナー 勝川 永一さん

photoMasahiro Sano textK-suke Matsuda(RECKLESS)

「H.Katsukawa」デザイナー
勝川 永一さん

「H.Katsukawa」デザイナー 勝川 永一さん

大学時代にセレクトショップ「シップス」で販売員として働き、卒業後に国内のシューズメーカーに勤めた後に渡英。ノーサンプトンの公的職業訓練校「トレシャム・インスティテュート」のフットウェアコースに入学し、靴のデザインと製作を本格的に学ぶ。その後、英国を代表するデザイナー、ポール・ハーデン氏に師事。帰国後、2006年に自身のシューズブランド「H.Katsukawa」を立ち上げる。2016年2月には、「Northampton Museum and Art Gallery」に、自身のコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、東洋人初めての靴作品として収蔵される。現在は、デザイナー業に加え、東京・目黒で、靴の修理や皮革のアフターサービスなどを行う「THE SHOE OF LIFE」を経営。国内タンナーとの共同レザー開発にも積極的に取り組む。
http://hkatsukawafromtokyo.net/

photoMasahiro Sano textK-suke Matsuda(RECKLESS)