GLENROYAL of Scotland

       

No.40

メガネの魅力を発信するお店の代表が企画した、

渾身のメガネケース

「荒岡眼鏡」三代目/「blinc」ディレクター荒岡 俊行さん

道具としての実用性とデザインの美しさを兼ね備えているのが、
グレンロイヤルのモノづくりの魅力だと思います。

トラディショナルブランドから新進気鋭の作家まで、国内外のアイウェアブランドを数多くセレクトし、感度の高い人たちからの注目を集めるショップ「blinc(ブリンク外苑前)」と「blinc vase(ブリンク・ベース)」。これらを手がけるのが、1940年に御徒町で創業した「荒岡眼鏡」の三代目・荒岡俊行さんです。お店では現在希少なMADE IN ENGLANDのメガネを取り扱われており、また、2019年にはグレンロイヤルとのコラボレーションとして別注のメガネケースを企画していただきました。今回はそんな荒岡さんに、お仕事やモノ選びのこだわり、愛用されているグレンロイヤルについてのお話を伺いました。

メガネの常識を破壊してくれた、ニューヨークの名店。

━メガネに関心を持った原体験について教えてください。

父方も母方も代々メガネ屋という家系で育ち、幼い頃から常にメガネが身近な存在ではありました。とはいえ、実際に深く興味を持ちはじめたのは社会人になってからのことです。編集者の友人からニューヨークにある「セリマ オプティーク」の話を聞き、衝撃を受けたんです。そして、勤めていた会社を衝動的に辞めて渡米しました(笑)。その当時、メガネと言えば黒やべっ甲のようなクラシックなイメージが強かったのですが、そこには何百種類というフレームカラーがあり、お店のスタイルも含めて、良い意味で自分の中の常識が壊されました。飛び込みで直談判して運良く2年弱ほど修業することができたのですが、本当に良い経験になりました。土地柄、さまざまな人種のお客様がいましたし、自社ブランドのほかに世界各国のメガネをセレクトしていたり、メガネに対する価値観も日本とは大きく違っていました。日本ではクオリティの均整を重視するのですが、個体差すら個性として捉えていることに驚かされましたね。自社ブランドのメガネはフランスで作られていたのですが、オールハンドメイドだからこそ同じモデルでも一点ずつ表情が違いました。だからこそ、余計に愛着が湧くんですよね。また、日本では棚にメガネを並べて「自由に選んでください」という形が主流ですので、カウンタースタイルの対面接客でお客様に合うものを提案するというのも新鮮でした。これらの経験が、自分自身のお店づくりのルーツになっています。


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意外と知られていない、道具としての役割。

━荒岡さんにとって、メガネとはどのようなモノですか?

基本的にメガネとは、“見るための道具”だと思っています。だからこそ、ナイフやハサミと同じように機能的であるべきですし、どうせならデザインが美しかったり、お気に入りのモノを使いたいという気持ちがあります。私のお店ではファッション性の高いフレームも取り扱っていますので、どうしても形に注目がいきがちなのですが、目が悪い方にとってはそもそも生活必需品。たとえば、メガネをかけている人に「どこのブランドのものですか?」と聞くと、答えられる方は多いと思います。ところが、「何メートルにピントが合っているんですか?」と聞くと、答えられない方が多いんですよ。本来、メガネは「どこにピントを合わせるか」という道具ですので、用途や目的に合わせて度数を調整しなければいけません。とくに近年は、言うなれば“人類史上初の近郊重視の生活”が求められていますよね。リモートワークでスマートフォンやパソコンを一日中眺めているのに、ピントが何メートルも先に合っていると、当然目が疲れやすくなってしまいます。こういったことが、まだまだ認知されていないのはメガネ業界の課題です。だからこそ、私たちはメガネについての考え方を発信して、“視生活”を向上させたいと思っています。


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実用性と美しさを兼ね備えた、プロダクトに惹かれる。

━モノを選ぶ際に、大切にしている基準はありますか?

実用性があり、デザインの美しさとこだわりが感じられるモノが好きです。そういう意味でとくに思い入れのあるのは、この〈ローレンス ジェンキン スペクタル メーカー〉のメガネかもしれません。1970〜1980年代に、〈カトラー アンド グロス〉や〈オリバー ゴールドスミス〉と並ぶ、英国の三大メガネブランドとして知られていた〈アングロアメリカンアイウェア〉という老舗ブランドがありました。そのデザイナーをされていたのがローレンスさんで、今やメガネ界のレジェンド的な存在です。1996年に引退されたのですが、どうしてもメガネを作って欲しいという思いがあり、2005年に知人経由で紹介していただき、なんとかお会いすることができました。ところが、ロンドンでテロがあり、話が立ち消えてしまって……。どうしても諦めきれず、その約9年後に会いに行き、何度もイギリスへ通ってようやく実現。「Design is never finished.(デザインに終わりはない)」という名言とともに、ご自身でサンプルまで手作りで完成させてくれた思い出の一本です。メガネとしての機能性はもちろん、デザインとしても芸術的なんですよね。今やメガネのデザインは行き詰まっているのですが、手作りだからこそ生まれる新しさはあると思っています。生産体制の事情もありMADE IN ENGLANDのメガネ自体が希少になっているのですが、その一方で小さな工房が増えてきているので、一点モノのような面白いデザインと出会えるのを楽しみにしています。


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長く使い続けることが前提にある、英国のプロダクト。

━英国製品の魅力とはなんでしょうか?

私はアイビー世代なので、高校生の頃はアメリカのファッションが好きでした。よく〈リーバイス〉の501に、〈ウォークオーバー〉のスエードシューズを合わせていましたが、その時のトップスが〈バラクータ〉のG9だったり、バッグが〈ブレディ〉だったり、思い返せば気づかぬうちに英国の製品が身近にありました。そう考えると、トラディショナルなデザインが多いというのはひとつの良さだと思います。〈バブアー〉のジャケットも10年以上愛用していますが、今でも同じモデルが販売されていますよね。そもそもモノづくりの根底に、長く使い続けるというマインドが根付いているのだと思います。たとえば、〈ブロンプトン〉という折り畳み自転車で有名なメーカーがありますが、モデル自体はどんどん改良して進化しているのにも関わらず、昔のモデルに新しく購入したパーツを取り付けられるという互換性があります。英国のクラシックカーにしても、いまだにパーツを作り続けている工場があったりして、古いモデルの修理パーツが手に入るというのはすごいことだと思います。他の国では、モデルの進化に合わせて仕様やパーツを一新してしまうケースも多いので、壊れたパーツの替えが手に入らなかったり、互換性がないことも多いですよね。時代に合わせた進化をしながら、その一方で長く使い続けられるようなモノづくりをしているのは、英国製品ならではの魅力だと思います。


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経年変化と機能美を楽しめる、英国らしいモノづくり。

━グレンロイヤルというブランドの印象を教えてください。

10年ほど前にプレゼントでブックカバーをいただいたのを機に、はじめてグレンロイヤルのプロダクトに触れました。その時に感じたのは、使い続ける楽しみがあるということです。新品がかならずしもベストの状態ではなく、自分の好みの経年変化に育てていけるというのは面白いですよね。たとえば、3年ほど前にミニパースを購入して愛用しているのですが、雑に使っていてもどんどん味が出てくるので経年変化を見るのがとても楽しみになりました。機能的にも申し分なく、小銭がたくさん収納できるので海外出張へ行った際にも現地の硬貨を入れて使っています。2019年にグレンロイヤルの輸入総代理店の渡辺産業が運営するブリティッシュメイドさんからコラボレーションのお声がけをいただき、メガネケースを作らせていただいたのですが、お店のスタッフやお客様にも好評で、私自身も愛用しています。どのプロダクトも実用的なだけではなく、デザインも美しいのが魅力ですよね。モノづくりにこだわり続ける英国らしいブランドのひとつだと思います。


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サイズとディテールにこだわり抜いた渾身の逸品。

━メガネケースの魅力とこだわりを教えてください。

市販されているメガネケースで、メガネ自体のトレンドに合ってないものも多いので、以前から機会があれば作ってみたいという思いはありました。そんな時にお声がけいただいたこともあり、またお店でイギリスのメガネを扱っているということもあり、親和性の高いモノづくりができるのではないかと思いました。とくにこだわったのはサイズです。メガネは時代によって流行のデザインがありますし、それによってサイズ感が変わることも多いので、市販のケースですとサイズがズレていることも多いんです。そこを解消するためにも、私だけではなく、お店のスタッフや渡辺産業の方と議論を交わしながら、2型の眼鏡ケースをチームでつくりあげていきました。サイズ以外の部分でもユーザー目線を大切に、ディテールにこだわっています。たとえば、フラット眼鏡ケースはアーカイブモデルよりも少し大きく設計し、その分ライニングをなくして、持ち運びしやすいように中央部分をくびれさせています。このモデルはメガネ置きと兼用することもできます。フラップ付き眼鏡ケースの方は、フラップを1cm伸ばし、スナップボタンの位置をずらすことで、中に入れたメガネにテンションがかからないような工夫をしています。どちらのモデルもタフなブライドルレザーで作られているので、経年変化を楽しみながら長く愛用できるのが魅力です。


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「荒岡眼鏡」三代目/「blinc」ディレクター 荒岡 俊行さん

photoMasahiro Sano textK-suke Matsuda(RECKLESS)

「荒岡眼鏡」三代目/「blinc」ディレクター
荒岡 俊行さん

「荒岡眼鏡」三代目/「blinc」ディレクター 荒岡 俊行さん

1971年生まれ。東京都出身。1940年に創業した「荒岡眼鏡」の三代目。大学卒業後、一般企業に就職したものの、一念発起して渡米。ニューヨークの「セリマ オプティーク」での修業を経て、2001年に国内外のアイウエアを扱うセレクトショップ「ブリンク」を外苑前に開店。その後、2008年に「ブリンク・ベース」を表参道に、2018年には新業態となるカフェ「ルッテン_」を御徒町にオープン。「眼鏡の未来を熱くする。」をミッションに掲げ、眼鏡カルチャーの発信に努める。所有するメガネは50本以上。
http://blinc.co.jp/

photoMasahiro Sano textK-suke Matsuda(RECKLESS)