GLENROYAL of Scotland

       

No.005

世界を飛び回るデザイナーに欠かせない
旅の日々を綴った“目次録”

「Archive & Style」代表坂田 真彦さん

旅の一部始終を記録してきた、
グレンロイヤルのポケットブックカバー。

幾多の洋服デザインを手がけ、英国への造詣も深いデザイナー・坂田さん。旅先で書き記すひとつひとつの事柄が記憶を鮮明にし、
デザイナーとしてのアウトプットにつながるのだとか。英国やデザインのお話とともに、グレンロイヤルの思い出について伺いました。

初めての英国で学んだ、ファッションへの姿勢

━英国にはどんな印象をお持ちですか?

初めて海外へ行ったのが20歳の時だから、1990年くらいだったかな。3カ国を回る旅で、パリとロンドンとローマへ行きました。当時は不景気だったので、イギリスは今より数段暗い感じがしたのが印象的でした。今はもうない「ケンジントンマーケット」という、ヴィンテージショップが集積しているビルがあったんですが、治安が悪いし、とにかくアンダーグラウンドな雰囲気でした。その中の古着屋さんで軍モノのブレザーを買ったんですが、店員がモヒカン頭でパンクスのあんちゃんで。怖そうだし、どう見てもブレザーなんかに詳しくなさそうだと思ったんですが、意外にボタンのディテールなんかを丁寧に教えてくれたんです。パンクスでも、違うジャンルのモノを定番として知っているというのを間近で感じたのは自分にとって大きな衝撃でした。当時の僕は、モードな服が好きだったんですが、ベーシックだったり、定番として愛されているモノの良さを、きちんと勉強しないといけないなと、強く思うきっかけになりました。


その後、2004年から2010年にかけて「ハロッズ」というロンドンにある百貨店ブランドの日本版で、ディレクターを務めることになりました。頻繁にロンドンに通うようになったことで、より一層英国のカルチャーが好きになりましたね。


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英国のモノには、絶対的な美学が宿る

━英国のプロダクトの良さとは?

たとえば、イタリアでスーツやシャツを仕立てたことがあるんですが、仕立屋さんがやたらと着心地を気にしてくるんですよ。イギリスだったら、まずそういうことは聞かれないですね。イタリアには、ぽっちゃりしている人が多いので、そういう人たちに合わせるために立体的に洋服を作ることが多い。一方、イギリスの場合は、プロダクトがかっこよくてそれにお客さんが合わせるという考え方。モノに絶対的な美学があるんですよ。もともと王族の制服のようなモノがルーツにあるので、作りもしっかりしている。そういう考え方が脈々と受け継がれているところは、イギリスの良さですね。


僕の集めているモノで言えば、ピンクッションなんかがあります。デザインが伝統的な革靴だし、ちゃんとシルバーで作られている。イギリスらしいプロダクトだなと思いました。マーケットで売っていて、値段は500円から3万円くらいまでピンキリ。見つけたら買うようにしています。


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日常にアンテナを張ることが、デザインを身近にする

━坂田さんにとって、デザインの面白さとはなんですか?

デザインは、特別なことじゃないんですよ。だって、洋服は日常的なモノじゃないですか。たとえば、21歳の時にパリへ行ったんですが、ちょっと良いレストランで食事をするために革靴を買ったんです。その日は雨が降っていたので、ラバー製のソールのモノを選びました。滑らないし、意外と良いんですよ。そういう風に、日常にアンテナを張ることが大事ですね。雨の日だったら、こういうモノを履きたいとか。だから、僕がデザインをする時には“ちょっとしたことに気の利いた服”というのを意識しています。ちなみに当時、師匠的な人には、「ラバーソールってダサいな」と言われて、傷ついたんですが(笑)。


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記憶のヒントを書き留める、10年来の相棒

━愛用されているグレンロイヤルは、いつ頃購入されたものですか?

ポケットブックカバーは、10年以上前に、僕がディレクションしていたブランドで別注したものです。大きさ違いのモノをいくつか持っていたんだけど、このサイズが使い勝手が良くてずっと愛用しています。車のレンジローバーやジャガーなんかもそうだけど、ブリティッシュグリーンがかっこいい。グリーンは売れない色の代表格にされてしまうことが多いので、あまりお店では作りたがらないんですけど、どうしてもやりたかったんです。色が変化して、茶色っぽく経年変化しているところも好きですね。これを旅先には必ず持って行って、買ったモノや食べたモノ、そこで感じたこと、思いついたアイディアやコンセプトなんかを適当に落書きしています。そこから記憶が蘇ることも多いので、ずっと続けていますね。


こっちの財布は旅用に購入して使っていました。修理をしながら愛用して、限界がきたら買い替えるというのを繰り返しています。財布ってあまりに使い古していると縁起的に良くないじゃないですか(笑)。グレンロイヤルの製品は定番として作り続けているモノが多くて、壊れても買い足せるという安心感が良いですね。あと、革がしっかりしているので型崩れしにくいというところも魅力だと思います。この財布も、お尻のポケットに入れて使っていたんですが、シャキっと形を保っています。ステッチワークも丁寧で、イギリスらしい絶対的な美学を感じさせてくれます。


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モノづくりに没頭できる、おだやかな環境

━グレンロイヤルの印象は?

(写真集を取り出して)これは、ポール・マッカートニーがビートルズをやめた後に出した、セルフアルバムの写真集。ポールは、田舎に引きこもって黙々とレコーディングをしていたんですよ。奥さんのリンダ・マッカートニーが写真家なので、そこでの日を切り取って本にしたんですが、撮影された場所がちょうどグレンロイヤルの工場に近い半島なんです。この写真集を見ている と、スコットランドの田舎町がとてもおだやかな環境だということを感じます。余分な情報が入ってこないようなエリアで、黙々とモノづくりを続けているからこそ、長く愛される定番品を生み出せるのかなと想いを馳せていました。


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傷がついてもかっこいい。それが革製品の魅力

━手入れのこだわりはありますか?

基本的にしないです。レザーシューズなんかでも、几帳面にピカッと磨くのが好きな人っているじゃないですか?僕はそういうのがあんまり好きじゃないんですよね。さすがに、ひどく汚れた時にはブラシでゴミを取りますし、色が剥げた時に塗り足したりはします。とはいえ、手入れはし過ぎないに限ります。ものすごく綺麗にしていると、場合によってはちょっとでも当たっただけで怒られそうな気がしませんか。それに、綺麗すぎるものってハリボテっぽいというか、パーソナルな感じがしないんですよね。革製品は繊細に扱うというより、使ったシワ感が残っているくらいの方が好きです。たとえば、クロコダイルの靴なんかも、雨の日にも気にせずに堂々と履きたい。そもそもワニなんて水の中でジャバジャバと泳いでいるじゃないですか(笑)。革製品は、傷がついてもかっこよくなるというのが一番の魅力だと思います。


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「Archive & Style」代表 坂田 真彦さん

photoTRYOUT textK-suke Matsuda

「Archive & Style」代表
坂田 真彦さん

「Archive & Style」代表 坂田 真彦さん

1970年生まれ。いくつかのコレクションブランドで経験を積んだ後、フリーランスのデザイナーとしてのキャリアをスタート。2004年には、自身のデザインスタジオ「アーカイブ&スタイル」を設立。デザイン以外にも、ビンテージショップをオープンするなど活動は多岐にわたる。近年では、「タケオキクチ」のクリエイティブディレクションに参画。

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