No.018
“一人問屋”兼クラフトバイヤーの琴線に触れた
グレンロイヤルのロングウォレット。
「スタジオ木瓜」代表日野 明子さん
暮らしの中でなくなると困るものが、
本当の“良いモノ”ではないでしょうか。
“つくる人とつかう人を繋げる”ことを掲げ、国内の手仕事や地場産業と、お店との架け橋になる役割を果たしているのが、「スタジオ木瓜」代表の日野明子さん。その活躍は問屋業だけに留まらず、企画展を催したり、地場産業のアドバイサーを務めるなど、さまざまな手法で世に素晴らしい生活用具や工芸品を伝え続けています。そんな優れた審美眼を持つ日野さんが、グレンロイヤルに惹かれた理由とは?
つくる人とお店を結ぶ“お見合いおばさん”
━日野さんのお仕事について教えてください。
仕事の内容としては、メインの問屋業の他に、展覧会などの企画、地場産業のアドバイザー・講師、あとは文筆業もしています。元々は、「松屋商事」(1998年に解散)という会社で営業をしていました。不思議な会社で、たとえば財布が好きであれば財布しか売らなくていい、棚卸しの際に在庫がゼロにさえなっていれば、好きなものを仕入れて勝手に納めても良いという、普通の会社ではありえないほど管理の緩い会社だったんです。たとえば、インテリアショップの老舗である六本木の「リビング・モティーフ」の担当になった時には、「絶対にこの店に合う」と思った日本の製品を提案し、置いて頂いたこともありました。前任者の時は代理店をしていた海外のグラスのみの取引だったので、自分の良いと思うモノを提案することで、先方のバイヤーも喜んでくださいましたね。
私は問屋業のことを、“お見合いおばさん”と呼んでいるんですが、一般的に良いと言われているモノでも、その魅力をしっかり受け止めて輝かせてくれるお店に置いてなければ、良さが伝わらないと思うんです。同じモノに対して、こちらのお店ではこの部分、別のお店であればこの部分を輝かせてくれるというのはとても面白いんですよね。それがピタリとハマった時に、問屋業としての喜びを感じることができます。よく地場産業の産地や作家さんの工房を訪れるのですが、「この製品はとても良いのに、他の製品に埋もれてしまっている」ということも多々あります。そういった部分を切り出して、つかう人に繋げるというのは、とてもやり甲斐のある仕事だと思っています。
“ライフスタイル”の時代へ突入し、台所道具への関心が高まる
━とくに想い出深いお仕事はありますか?
独立して間もない頃、新宿の「リビングデザインセンターOZONE」という場所で、50人の作家さんのご飯茶わんに、「食のギャラリー612」を主宰する料理家・たなかれいこさんが考案した50種類のご飯を盛り付け、パネルにして展示するという企画展をやらせて頂いたんです。贅沢に冊子まで作って頂いたのですが、それが人手に渡ったのを機に、イタリアの方から「うちの国でもやりたい」というお声を頂きました。同じ企画で冊子を作ってくださったのですが、これがまた奇想天外な料理ばかりで(笑)。それが1999年の頃で、その後、2003年に雑誌『クウネル』が創刊したり、次第に時代の関心がライフスタイルの方へ向いてきたんです。そして、2010年にスターネットの馬場浩史さんから、作家モノ抜きで台所道具の展覧会をして欲しいとオーダーを受けたんです。
それを機に、地場産業の製品を扱うことが増えましたね。馬場さんは時代の先を読める人でしたが、その展示以来、本当に台所道具を中心とした生活道具がクローズアップされる流れになったことには驚かされました。そういう意味ではとても想い出深い仕事かもしれません。あと、ちょうど今年の10月頭に松屋銀座で開催した「銀座・手仕事直売所」にも思い入れがあります。10年間続けて参加させて頂いたのですが、今年で引退することにしたんです。体力を使うイベントですので、一区切りを付けて、来年はじっくり本を書いたり、別の企画を立ち上げようと思っています。
存在を主張し過ぎず、なくなると困るモノ
━日野さんにとって、“良いモノ”とはなんですか?
暮らしている中で、なくなって困るものではないでしょうか。たまに、パッと気軽に買えるような値段ではないモノの良さを知って欲しくて、自分の愛用している道具を貸し出すことがあるんです。たとえば、先日も岩手の木工家・平岡正弘さんの作るカトラリーを知人に貸し出しました。貸出中の1週間は非常に不便でしたね。ですが、そのおかげで、「あぁ、こんなにもあのカトラリーに頼っていたのか」ということを実感できました。好きな漆の器も人にお貸しすることがあるのですが、沢山持っているとはいえ、やはりお気に入りのモノがあるんです。使いたい時に、「あぁ、貸し出していたんだった」と愕然とするなんてこともよくありますね(笑)。そういう風に思わせてくれるモノは、本当に良いモノだと思います。
その一方で、生活の中でデザインが主張してくるモノは苦手なんです。シルエットが美しいモノは好きなのですが、空気のごとく日常に馴染むモノが良いですね。過度に主張しないからこそ、生活の一部となって、ボロボロになるまで長く愛用することができるんだと思います。
大雑把に使っても、安心感のあるブランド
━グレンロイヤルとの出会いを教えてください。
この財布は1年ほど前に、青山の「ブリティッシュメイド」さんで出会いました。私は普段ほぼ純国産の製品しか使わないのですが、見せて頂いた時にとても素敵で、改めて歴史のあるファクトリーが作る製品の凄みを感じました。私が取り扱う製品は、小規模であったり個人で作られている作家さんも多いのですが、繊細で優しいデザインの一方で、強度に欠けることも少なくはないんです。そういう意味で、「グレンロイヤル」の製品の安心感はすごいですね。ブライドルレザーの触り心地も良いですし、質感がしっかりしていてとても頼り甲斐があります。私は大雑把な性格なので、消耗が激しいのですが、1年の間ガシガシと使い込んだ割にまだまだこんなに綺麗な状態なのは、質が良いことの証明だと思います。
とくに財布に関しては、手の脂でなんとかなるという信念を持っているので、まったくメンテナンスをしないんです(笑)。まして、アナログな人間なので、アプリではなくポイントカードを沢山入れているのですが、それにも関わらず、ダメにならないのはすごいと思いました。財布を使ってみて、とても気に入ったので、次はトートバッグを買おうと密かに企んでいます(笑)。せっかくなら、オーダーで2トーンのコンビネーションにしたいですね。
経年変化を楽しめるモノが好き。
━グレンロイヤル以外に長く愛用されているモノはありますか?
気に入ったモノは使い込むのがモットーなんです。たとえば、漆の器。本日お持ちしたのは、岩手の安比塗漆器工房さんや沖縄の木漆工とけしさん、作家の阿部久仁子さん、高橋敏彦さんの漆器で、長いモノで10年以上愛用しています。最初はマットな状態なのですが、使い込んでいくごとにツヤが出てくるのが好きなんですよね。漆器は作るのにとても時間がかかりますし技術も必要なのですが、その甲斐もあって手触りも良いですし、使い込んだ成果が出やすいというのも魅力です。器としてはとても高価かもしれませんが、それだけ返ってくるものも大きいと思っています。あと、使い込んだモノを愛用していると、周りの人たちから「欲しくなる」と言われることがよくありますね。新品にはない魅力が生まれるという意味では、「グレンロイヤル」の製品と近いのかもしれないですね。
photoTRYOUT textK-suke Matsuda
「スタジオ木瓜」代表
日野 明子さん
1967年生まれ。共立女子大学家政学部生活美術学科在学中に、秋岡芳夫氏に影響を受ける。大学を卒業後、松屋商事にて入社。1999年に独立し、「スタジオ木瓜」を設立する。お店と作家・産地をつなぐ問屋業を中心に、展覧会などの企画、地場産業のアドバイザー・講師、文筆業などで活躍。著書に『うつわの手帖・1、2』、『台所道具を一生ものにする手入れ術』など。
http://utsuwacafe.exblog.jp
special thanks:Matsuya Ginza, Nihei Furukaguten
photoTRYOUT textK-suke Matsuda