No.33
世界一の靴磨き職人が惚れた、
アイコンカラーのマネークリップ。
「Y’s Shoeshine」代表杉村 祐太さん
明るい緑色が、エイジングを経て自分好みの深い緑に。
ブライドルレザーのおもしろさを知るきっかけになりました。
2019年に英国・ロンドンで開催された靴磨きの世界大会にて、「Brift H」の長谷川裕也さんに次ぐ、二人目の日本人世界チャンピオンの称号を獲得したシューシャイナーの杉村祐太さん。地元である静岡に自身のお店「Y’s Shoeshine」を構え、全国の靴好きに向けてモノを大切に長く愛用することの魅力を伝えています。そんな杉村さんが一度は買い逃してしまったものの、良きタイミングで手に入れたというグレンロイヤルの小銭入れ付きマネークリップ。その理由を仕事やモノ選びのお話と合わせて伺いました。
父親の背中を見て覚え、サラリーマン時代の支えになった靴磨き。
━ 靴磨きの原体験を教えてください。
父親が典型的なA型といった感じで、なんでも綺麗にしておきたい人だったんです。とくに印象に残っているのは靴磨きを習慣にしていたことで、よくその姿を見ていました。僕自身は高校生の頃にローファーなどの革靴を履き始めたのですが、その時に父の見様見真似で磨いてみたんです。当時はどの道具がどんな役割なのかも分からず、なんとなくブラッシングをしたりする程度でしたが。その後社会人になってからは趣味の一つとして続けていました。建設会社で設計職を目指して奮闘していたのですが、会社から求められていることと、自分が思い描いている理想とのギャップが大きくなってきて……。そんな時に靴磨きは良いストレス解消になっていました。とにかく楽しかったので、バイブルのような雑誌を古本で発掘したり、シューケア用品メーカーの発行する冊子をひととおり集めたり、YouTubeで動画を観てノートにまとめたりしながら、靴磨きのやり方を学んでいました。そんなうちに幸いにもSNSなどで少しずつ注目されるようになってきたので、30歳を手前に好きなことで生計を立てる決断をしました。会社員をしながら趣味として続けるという選択肢もありましたが、今は後悔していません。
静岡の靴好きへの恩返しとして、必要とされるお店を目指す。
━地元の静岡にお店を出された理由を教えてください。
僕が独り立ちするまで支えてくれた方々に恩返しをしたいというのが一番ですが、そのほかに静岡にもモノを大切にしている靴好きがいるということを伝えたいという思いがあります。開店当初は「え、静岡にもビスポークやジョンロブ、エドワードグリーンの革靴を履いている人はいるの?」とバカにされることもありました。だから、静岡に本店を置いた上で、そこを拠点にして東京に二号店や三号店を出したいという野望はありますね(笑)。静岡にはチェーン展開をしているお店はあるのですが、うちのようなスタイルは珍しいです。それに、お客様の中には靴磨きを単なるサービスとしてではなく、信用できる人に磨いてほしいという考えの方も多くいらっしゃいます。だから僕は、履く方のライフスタイルに合わせた靴磨きを心がけています。たとえば、静岡は車社会ですので、鏡面仕上げをヒールまで強くかけてしまうとペダルを踏んだ時にかかとが擦れてしまいます。とはいえ、ワックスを薄くしてしまうと傷になりやすくなるので、しっかりワックスを使いながら光加減を調整するようにしています。お客様からも「静岡にこういう人がいて良かった」とうれしい言葉をいただくことも多いので、これからも「革靴の手入れに困ったら、杉村のところへ行けばなんとかなる」と感じていただけるようなお店を目指していきます。
『機関車トーマス』の影響で、アイコンカラーがグリーンに。
━モノを選ぶ際に、どのような基準を大切にしていますか?
インスピレーションを大切にしているので、どちらかといえば見た時の直感で選ぶことが多いかもしれません。最近はウェブで買い物をすることも多いのですが、手に取れるモノはできるだけ直接見て触るようにしています。モノ選びになにか傾向があるとすれば、昔からとにかく緑色が好きなんです。母親いわく、小さな頃に観た『機関車トーマス』の影響ではないかと。僕が好きだったヘンリーというキャラクターは緑色でしたからね(笑)。本日お持ちしたグレンロイヤルのマネークリップも緑色ですし、10年くらい愛用している英国ブランドのキーケースもそうですね。ここ5〜6年ほど使っているラザフォードのクラッチバッグも「Brift H」の長谷川さんがこのカラーで別注されたのを知って即購入したものです。小さな方は3〜4年前にオークションで購入したのですが、緑がかった珍しいグレーカラーが気に入って愛用しています。
使う中でその魅力に驚かされる、“普通に良いモノ”。
━英国製品の良さを教えてください。
靴磨きでもそうなのですが、“普通に良いモノ”にするというのは一番難しいです。英国の製品はモノづくりに徹していると言いますか、見た目はシンプルなデザインにも関わらず、ただならぬ高級感や奥深しさが漂うモノが多い印象です。だからこそ、使っていくうちにその魅力に驚かされるんですよね。じつを言うと僕はあまり物持ちの良い方ではなかったんです。3ヶ月触らなかったらなんでも平気で捨ててしまうようなタイプで。ですが、こういう仕事に出会って、しっかりしたモノづくりの製品を知るようになり、モノを長く愛用することの面白さに気づけるようになりました。そういう意味で、英国製品から影響を受けた部分も多いと思います。とくに革製品に関しては、自然と質実剛健なモノづくりで長く愛用できる英国のモノを買うことが増えてきました。
マネークリップを探して、たどり着いたグレンロイヤル。
━グレンロイヤルとの出会いを教えてください。
マネークリップにはずっと憧れていたのですが、大人の持ち物という印象があったので若くして持つことに葛藤がありました。ですが、思い切って挑戦してみようと思い調べ始めたのですが、僕の好きな緑色のモノがなかなか見つからず……。その時にグレンロイヤルにたどり着いたのですが、当時はこのボトルグリーンというカラーがまだ限定色で、お金を貯めているうちに買い逃してしまったんです。そして止むを得ず、別のブランドのマネークリップを購入して使っていました。その後、縁があってグレンロイヤルの輸入代理店が運営しており、英国製品に特化したセレクトショップ「ブリティッシュメイド」で靴磨きのワークショップをやらせていただくことになり、その時に改めてグレンロイヤルのコレクションを見ることができました。その時に感じたのは「シンプルなモノで良いんだ」という意思と、「俺たちはブライドルレザーの革製品で勝負しているんだ」という潔さです。普遍的なモノづくりに感銘を受け、「もっと前から知りたかった」と本気で思いましたね(笑)。そんなこともあり、良い機会なので念願だった緑色のマネークリップを手に入れました。
エイジングのおもしろさを体感した、育つ財布。
━愛用されているグレンロイヤルの魅力を教えてください。
僕は父親の影響もあり、小銭をポケットに入れる癖がありました。だから、これを手に入れる前は小銭入れのないマネークリップを使っていたのですが、次第に不便に感じるようになってしまって。そこで自分にとって財布に必要な機能を見直した上で、小銭入れ付きのタイプを選びました。ブライドルレザーの財布は分厚い革が使われていることが多いですが、これはちょうど良い薄さで作られています。普段は財布をジャケットの内ポケットやパンツのお尻のポケットに入れているのですが、かさばらずに収納できるので気に入っています。革質自体はタフなので、磨き屋が言うのもなんですが、3ヶ月から半年に1度クリームを塗る程度しか手入れをしていません(笑)。手で持つことが多く、手の油が入るのでそこまでメンテナンスが必要ないというのもありますが。とくに驚いたのは色の変化です。使い始めて3年目になるのですが、もともとの明るいグリーンが、僕好みの深いグリーンに育ちました。ブライドルレザーのエイジングのおもしろさを知る良いきっかけになりましたね。お客様から褒められることも多いので、本当に使えなくなるまで使って、最終的にはお店にエイジングのおもしろさを伝えるサンプルとして飾っておきたいと思っています。
photoKenichiro Higa textK-suke Matsuda(RECKLESS)
「Y’s Shoeshine」代表
杉村 祐太さん
1990年生まれ。静岡県出身。父親の影響で靴磨きを始める。建設会社勤務を経て、2014年に独立。地元である静岡に「Y’s Shoeshine」をオープンする。2018年の「第一回靴磨き日本選手権大会」で3位を獲得。2019年に英国・ロンドンで開催された「世界靴磨き大会」では、大会史上二人目の日本人優勝者となる。現在は静岡のお店を拠点に、全国のセレクトショップや百貨店などで、靴磨きのワークショップなども行う。
https://www.ys-shoeshine.com
photoKenichiro Higa textK-suke Matsuda(RECKLESS)