No.38
“地域の色”を大切にする会社の代表が惚れた、
2つのカードケース
「FONZ」代表小山 正さん
古くから愛されているデザインを磨きながら、現代に生かしている。
それこそが英国に根付いたプロダクトの魅力ではないでしょうか。
長野県は軽井沢と関東地域を主な拠点に、蕎麦処「川上庵」、「鎌倉 松原庵」、ベーカリー「沢村」、「THE CITY BAKERY」など、多様な業態を手がける株式会社FONZ。その経営の根底には、土地に根付いた空気を大切にし、料理や空間、サービスで世界に通用する一級ブランドをつくるという理念があります。今回、同社の代表である小山正さんのもとを訪れ、お仕事やモノ選びについてのお話を伺いました。系列店のセレクトショップ「GREEN FOG」では、グレンロイヤルの製品を扱っていただいており、小山さん自身も2種類のカードケースを長くご愛用されています。
留学時代に感じた、伝えることの大切さ。
━26歳の時に起業をされていますが、「地域に根付いた良いものを伝えたい」という考えに到ったのはなぜですか?
アイスホッケーをするためにカナダの高校へ留学をしていたのですが、自分が思う“日本の良いモノ”が思うような形で伝わっていないと感じました。仮に海外へ持ち込まれていたとしても、あまり日本のことを知らない方が提案されているケースも多く、良い形で表現されていないことを歯痒く思いました。それが、土地に根付いた良いものをきちんと伝えたいと思い立ったことの原体験です。また、私は長野県の軽井沢で生まれ育ったので、身近にたくさんの別荘があり、自然の中に並ぶ和でも洋でもない別荘建築を見るのが好きでした。そういう意味では、昔から土地の空気を取り入れたモノづくりを肌で感じていたのかもしれません。その経験は今でも店舗のコンセプトを考えたり、内装をデザインする際に役立っています。そういった背景が、自分たちの琴線に触れた世界観や良品をお客様に紹介したいという思いに繋がっています。蕎麦処「川上庵」や「ベーカリー&レストラン沢村」、調味料などの名産品を取り扱う「酢重正之」、今年鎌倉にオープンした「HOTEL AO KAMAKURA」など、業態にはこだわらず伝えるということを重視しています。「こんなに良いものがあったのか」と発見していただくことが、なによりのやりがいです。
都会と自然を往来する、デュアルライフ。
━普段はどのようなライフスタイルを送られていますか?
東京と長野を往復しながら、二拠点で生活を送っています。基本的にはほとんど仕事をしているかもしれませんね(笑)。ただ週に一度は地元の軽井沢へ帰るようにしているので、東京とはまったく違う自然の空気の中で過ごせるのは、とても良い息抜きになっています。なかなか一日丸ごと空くということはないのですが、愛犬が三匹いるので、散歩をしたり一緒に時間を過ごすことは多いです。あと、年に数回程度しかできないのですが、休みがあれば釣りへ出かけます。従兄弟が釣具店兼コンダクターをしていまして、小学生の時に連れて行ってもらったことを機に趣味になりました。はじめはルアーフィッシングから入ったのですが、いまではフライフィッシングを中心に行っています。3年前には念願であった1800年代にイギリスで作られた竹製の釣り竿とリールを手に入れました。英国はフライフィッシングの聖地なので、これも土地に根付いたプロダクトのひとつということになりますね。珍しい代物で、従兄弟がオークションで手に入れたものを譲ってもらいました。
英国製品には、心惹かれる理由がある。
━小山さんにとって、“良いモノ”の条件とはなんでしょうか。
私の会社では「世界の一級品をつくる」を合言葉にしています。それはつまり、自分が他人に勧めることができるモノで、長い間愛され続けるモノであるということです。自分たちが心から良いと感じたもので、なおかつ歴史や背景と共に土地に長く根付いているモノは、“良いモノ”である可能性が高いですよね。もともと奇をてらったような新しさよりも、昔から受け継がれているデザインの方が好みなのですが、自分の愛用品を振り返ってみると自然と英国の製品が多くなっていました。たとえば、10年選手のラベンハムやバブアー、グレンフェルのコート、学生時代から愛用しているジョンスメドレーのニット、愛車のレンジローバーやコンドルの自転車……。ここ数年愛用しているブルックス イングランドのバックパックも、150年以上英国に根付くメーカーだけありモノづくりが非常にしっかりしています。やはり英国製品の魅力は、古くから愛されているデザインを磨きながら、現代に生かしているということだと思います。だからこそ、古さを感じさせず長く愛用できますし、土地の空気を感じさせる一級品と呼ぶべきプロダクトが多いと感じています。
地域が持つ空気感が、ブランドの個性になる。
━伝統として受け継がれ、その土地に根付いたモノの魅力とはなんでしょうか。
その地域にしかない背景や歴史に基づいて、ブランドやプロダクトができあがっていくと思うのですが、それを感じられるということはそれ自体が個性になりますよね。それをきちんと表現することができると、人の心に訴えかける魅力が生まれるのだと思います。これはまさにお店においてもそうでして、軽井沢の「川上庵」にしても鎌倉の「松原庵」にしても、弊社では店舗をつくる際に、その地域が持つ空気感をどうやって乗せるかということに重点を置いています。大きな範囲で考えれば、まずは「日本らしさ」というものがありますよね。その個性を生かすと、世界の人たちの心に響くものをつくることができます。さらに視点を絞っていくと、「地域らしさ」にたどり着き、それがお客様の心に響くものになります。無理してその地域の知識を広げるのではなく、自然に感じたことを生かして、表現することが大切なのではないかと思っています。
琴線に触れた、ブライドルレザーの佇まい。
━グレンロイヤルとの出会いを教えてください。
製品自体は存じ上げていたのですが、7年ほど前に「GREEN FOG」で取り扱うことになった際に改めてブランドのことを知りました。第一印象で素直に「かっこいい」と感じたことを今でも覚えています。小学生の頃に父から革のベルトを買ってもらって以来、革製品が好きになり色々なメーカーのモノを使ってはいたのですが、グレンロイヤルのブライドルレザーの雰囲気には本能的に惹かれる魅力がありました。はじめは表面にブルームが出ていて、使い込む前の状態を表しているところも段階的にエイジングを楽しめるので良いですよね。ブランドとしての歴史やモノづくりのこだわりもそうですが、それ以上に自分が心から良いなと感じられたので、きっとお客様も気に入ってくださるだろうと思い、取り扱いを決めました。弊社の場合、お店の打ち出す世界観を支持してくださる方が多いので、そこに馴染むだろうという確信はありました。社員からの支持が熱く、愛用しているスタッフもかなり多いです。
見た目以上の収納力とタフな革質。
━愛用されているカードケースの魅力について教えてください。
グレンロイヤルの輸入総代理店である渡辺産業の方に勧められて、最初に購入したのがバイカラーの「9ポケットカードホルダー」です。スマートフォンに近いサイズ感で、手の平に収まるフィット感がとても使いやすく、気に入っています。こんなにコンパクトなのにも関わらず、ポケットが9つも付いているので、クレジットカードと身分証、お札を入れて財布の替わりに使用しています。背面にも交通系ICカードを入れられるポケットがあり、これだけで日常生活を送るには十分です。また、フラップが付いていてホールドできるので、中身が飛び出る不安もありません。カードホルダーを使い出した少し後に、「名刺入れ」も購入して使い始めました。こちらも見た目以上にたくさんの枚数を収納できるので、重宝しています。どちらも3年ほど愛用していますが、ブライドルレザーが丈夫なので形が崩れずにしっかりとしているところに驚かされました。ケアはほとんどしていないのですが、使い込むごとに革が柔らかくなり手になじんでいく感覚が好みです。スコットランドという土地に根付いたプロダクトであり、世界中で長く愛され続けている理由がよく分かりました。
photoMasahiro Sano textK-suke Matsuda(RECKLESS)
「FONZ」代表
小山 正さん
1974年生まれ。長野県軽井沢出身。高校時代にアイスホッケーで留学し、5年間カナダで過ごす。その後、慶應義塾大学に進学。卒業後、2000年2月に26歳で「株式会社FONZ」を創業。同年7月に「川上庵 本店」を軽井沢で開店。以降、関東にも進出し、現在では全国にさまざまな業態を手がける。2020年11月には「川上庵 東京」を外苑前の「the ARGYLE aoyama」内に、2021年3月には「HOTEL AO KAMAKURA」を神奈川県鎌倉市にオープンする。
photoMasahiro Sano textK-suke Matsuda(RECKLESS)