No.34
雑誌づくりを愛するアートディレクターの
仕事道具が詰まったロールペンケース。
アートディレクター宮古 美智代さん
プロダクトとしてのデザインや機能はもちろん、
使い続ける中でたくさんの発見がありました。
長年、雑誌『Coyote』と『MONKEY』のアートディレクターを務め、2020年より『暮しの手帖』のアートディレクションも手がける宮古美智代さん。職業柄、出版社の編集部で作業をすることも多く、常にどんな場所でも作業環境を整えられるように心がけているそうです。
そんな宮古さんに欠かせない仕事道具がたくさん詰まっているというグレンロイヤルのロールペンケース。今回は仕事やモノ選びのお話と合わせてその魅力を伺いました。
偶然からキャリアが始まり、現在は三誌のアートディレクターに。
━現在のお仕事について教えてください。
じつはもともとデザイナーになろうとは思っていなかったんです。大学時代に友人がイラストレーター・石倉ヒロユキさんの事務所でバイトをしていて、そこは本のデザインもする事務所で、ちょうど料理の本を作る時の撮影用の料理を作る短期バイトを募集していたので面白そうだなと思い、応募しました。撮影後にせっかくだから「バイトを続けてみたら?」と勧められ、それをきっかけにこの世界に入りました。その後、縁があって装幀家の緒方修一さんのお手伝いをすることになり、2007年に雑誌『Coyote』が月刊化したタイミングで編集部のインハウスデザイナーとして私が入ることになりました。
それから緒方さんに代わり『Coyote』のアートディレクターになって以来、現在でも続けています。そのほかには、2013年に創刊した雑誌『MONKEY』や、今年からは『暮しの手帖』のアートディレクターも務めています。私は原稿を読まないとデザインを考えられないタイプなので、ひたすら原稿を読みながらディレクションの方向性を考えます。とくに意欲的にインプットをしている方ではないのですが、過去に観た絵や写真など気になったものは、保存しておくようにしています。
自分の想像を超えた出来事が感動になる。
━お仕事の醍醐味を教えてください。
本作りには、たくさんのスタッフが関わるので、予期せぬことが起きるということがおもしろいところだと思います。とくにそれを感じられるのは『MONKEY』かもしれません。文芸誌で基本的には文章だけのシンプルな構成で、それに合わせた写真や絵を作家の方にお願いするのですが、文章とビジュアルが合わさり、それぞれを単体で見ていたときよりも内容がより深く伝わりそうなページが出来上がると、「この方にお願いして良かった」と毎回感動してしまいます。先日、念願が叶って、兼ねてより表紙を描いていただきたいと思っていた、しりあがり寿さんにお願いすることができたのはとてもうれしい出来事でした。あとは単行本に関しては、造本のおもしろさがあります。小説家・塩田武士さんの単行本を担当させていただいた際に、長編の作品をあえて薄い本文用紙を選び、ページ数の多さを感じない厚さの本になるようにしました。普通は読み進めていくと手触りであとどのくらいで話が終わってしまうのかが、なんとなく分かってしまうじゃないですか? それが、薄い紙で作ると思っている以上にまだページ数があって、長く読むことができるので。村上春樹さんの作品でそのような本があって、「あと少しで読み終わってしまう」と感じたところからまた、話が展開したりして、それがとてもうれしかったのを覚えていて。いつかそういう造本ができたらいいなと思っていました。こういうことができるのは、紙の本ならではのおもしろさだと思います。
シンプルで直感的に扱えるモノは長く愛用できる。
━モノを選ぶ際に、どのような基準を大切にしていますか?
最近はとくに、デザインがシンプルで使い心地が良く、長く愛用できるモノに惹かれるようになりました。仕事柄、レイアウトが印刷された校正紙に修正などの指示を書き込むことがあるので常に2種類の赤ペンと、黒ペン、万年筆を持ち歩いているのですが、とくにこの〈パーカー〉の万年筆はお気に入りです。軽いだけでなく、シンプルなつくりで描きやすいんですよ。プライベートでロンドンへ旅行に行った際、向こうのスーパーマーケットのようなところで見つけて購入しました。それ以来すっかり気に入り、次にロンドンへ行った時にもお土産として買おうと思ったのですが、なかなか見つからなくて必死に探したのは良い思い出です。
どんな場所でも作業環境を整えられるようにするのが流儀。
━普段はどのようなモノを持ち歩いていますか?
デザイナーになりたての頃は、いろんな土地に行ってデザインをする“流しのデザイナー”になりたいと思い、積極的に地方のデザイン会社や企業に住むところを用意してもらって仕事をしに行っていた時期がありました(笑)。
その時に学んだのが、どこへ行ってもいつもの環境で作業できるようにした方が良いということです。今でも出版社の編集部で仕事をすることも多いので、いつも自分の中で定番のセットを持ち歩くようにしています。グレンロイヤルのペンケースにはお気に入りのペンを入れていますし、自分の世界に入れるようにするために〈コス〉のブルートゥースヘッドホンと、イギリスの〈ニールズヤード レメディーズ〉などの携帯アロマは欠かせません。自宅と同じ香りがあるととても安心するんですよね。
あとは持っているとなぜか安心する黄色のダーマトグラフも。最近購入したモノの中で一番のお気に入りは〈ポスタルコ〉のバインダーです。仕事をする中で裏紙が大量に発生してしまうので、それをガサッと挟み込んで、ページのラフを考えたり、やることリストを書くために活用しています。ヘッドホン以外はペンケースの中に巻き込んで持ち運べるので、とりあえずペンケースさえ忘れなければ大丈夫ですね。
ノスタルジックな感覚で、定番に返り咲いたロールペンケース。
━グレンロイヤルとの出会いを教えてください。
3年ほど前に初めて、「ブリティッシュメイド 青山本店」でグレンロイヤルのコレクションを見ました。プロダクトに使われているブライドルレザーがとてもしっかりしていて、丈夫で長く愛用できそうという印象でした。オールレザーのトートバッグも素敵だったのですが、自分にはまだ早いという気持ちがあったので、仕事で使う頻度が高いペンケースを選びました。
じつは高校生の時に巻物みたいなデザインのペンケースを持っていたことがあり、これを見た時にそのことを思い出してとても懐かしい気持ちになったんです(笑)。見た目はシンプルながら、デザインや色にフックがあるところも良いですし、普段愛用している〈aeta〉の名刺入れや〈アリスパーク〉の財布と並べた時のバランスも気に入っています。私はとりわけ革小物自体を積極的に買う方ではないので、気に入ったモノがあれば、自分の定番として壊れても買い換えて使っていきたいと思っています。そういう意味では、グレンロイヤルのようにブランド自体に歴史があり、定番モデルとしてリリースされているプロダクトがあると安心感を持つことができます。
使い始めてからの新たな発見が、さらに愛着を深める。
━愛用されているグレンロイヤルの魅力を教えてください。
プロダクトとしての魅力はもちろんですが、使い続ける中で「こんな使い方もできるのか!」とたくさんの発見がありました。内側にはポケットが付いているのですが、試しにメガネを入れたらちょうどよく収まりましたし、USBや付箋、目薬なども入るので気に入っています。また、ストラップの長さを留め穴で調整できるので、ペン以外に色々なモノを巻き込んで持ち運ぶことができることにも気づきました。
私の仕事は紙の媒体が多いのですが、最近とくに紙の本の良さを感じています。たとえば、『暮しの手帖』には料理のページがありますが、作りたい料理を見つけたら本をキッチンにバサっと広げて工程を見ながら調理する。そうすると本が汚れたりもするのですが、見返した時にその汚れやシワから、この料理を作った時のことを思い出すことができたり。それと一緒で、自分が作ったモノや愛用しているモノがエイジングされて使い込まれていくとその分愛着が湧きますよね。このペンケースもそんな風に長く愛用していきたいと思っています。
photoMasahiro Sano textK-suke Matsuda(RECKLESS)
アートディレクター
宮古 美智代さん
1976年生まれ。大学を卒業後、イラストレーター・石倉ヒロユキ、装幀家・緒方修一のアシスタントを経て、フリーランスのデザイナーとして独立。現在は雑誌『Coyote』『MONKEY』『暮しの手帖』のアートディレクターを務めるほか、単行本などのアートディレクションやデザインを手がける。
photoMasahiro Sano textK-suke Matsuda(RECKLESS)