IN THE CAFE Vol.2
ここは緩やかな坂を登った先にあるクラシカルな雰囲気が特徴のカフェ。
様々な年齢層のお客さんが今日も集っています。
偶然にも〈グレンロイヤル〉の「トートバッグ」を愛用する4人のお客さんがお店にやってきたようです。
少しだけ、各々の物語を覗いてみましょう。
いつもより少し早く起きた朝、足早に家事を済ませて、歩いて近所のカフェへと向かう。いつもなら煩わしい洗濯や掃除だって、今日は不思議とそんなに嫌じゃない。ひとりの時間だからできること。例えば、それは時間を気にせずゆっくり過ごすことだったりする。長かった冬も終わり、重いウールのダッフルコートを脱ぎ捨て、イギリス製のトレンチコートを羽織って出てきた。コートに合わせるのは、いつも決まってこの革のトートバッグ。4年前の誕生日に主人からプレゼントされた私の相棒だ。お決まりの窓際の席に座り、シングルオリジンのスペシャルティコーヒーを注文。レモンの酸味が効いたクリームが上にのったマフィンがこの店の名物だ。これを食べるために1週間頑張っているといっても過言ではない。このカフェで過ごすマイルールがひとつある。それはスマートフォンを絶対に開かないこと。これは心理的にも物理的にも、「ひとり」になるため。考えごとをしてみたりうわの空を楽しんだり、1週間に一度、日常から解放され、手持ち無沙汰の時間をとことん楽しむことにしている。ふと、これからの生活のことについて考えてみた。改めて身の回りにあるものを大事していこうと思った。それは家具や食器、衣類だけでなく人間関係のことについても。今の私は充分に恵まれている気がするのだ。
以前、ヨガの帰り道に見かけてからずっと気になっていたこのカフェ。今日初めて来てみたけれど、その勘はやはり的中。私好み過ぎて、正直、心の中でテンションが上がっている。今日は、学生時代からの親友と、憧れのロンドン旅行の計画を立てるためにここで待ち合わせをしている。20代前半の旅は、台湾や韓国といった近場のアジアが中心だったけど、お互い少しだけ、心にも、時間にも、金銭的にも余裕が出てきたので、満を持して二人で初のヨーロッパへ。最近知ったことだけれど、恋人からプレゼントされたこの〈グレンロイヤル〉のトートバッグも、どうやらイギリス製のものらしい。私には男っぽすぎるかなと思っていたけど、いざ使ってみるとシンプルなデザインと、なんでも気兼ねなく入れられるサイズが特に気に入っている。赤い大判のストールとの相性もバツグンで、ONにもOFFにも使えて、すっかり日々のスタイルの主役になっている。来るべき30代に備えて、これからの私は洗練されたベーシックを味方にして、オトナ女子の階段を一歩ずつ確実に登っていくのだ。さてさて、ロンドンに行ったら何を買おうかなぁ。
「一生モノ」という言葉に、どうもめっぽう弱い。気がつくと飽きのこない定番のアイテムばかり身につけている。イギリス製のキルティングコートに、フランス製のチロリアンシューズ、スイス製のダイバーズウォッチ、どれもこれも10年選手だ。そもそも流行りモノの服が似合わなくなってきているし、いわゆるこれが加齢ってやつなのかもしれない。服装だけじゃない。何気ない行動や趣味だって、いつからかルーティン化してきている。長年足を運んでいるこのカフェも、かれこれ15年近く通っているしね。そういう意味では、この店も「一生モノ」と呼ぶにふさわしい。新しいものを開拓する冒険心を忘れたというよりも、長年かけて自分の好みというものがわかってきたというのが正しい。いま使っているこのトートバッグも、年を重ねれば重ねるほど愛着が持てている。【OXFORD TAN】という色は、デニムのインディゴブルーのように長年使い込んで、褪せるほど味わいが増すようにできているようだ。近頃やっといい風合いが出てきた。そろそろ妻の美容院が終わる頃かな? 今日は10回目の結婚記念日。この後合流して、久々にふたりきりでデートに出かけてみようと思う。
締め切りに追われ、逃げ出すように、気分転換がてらこのカフェにやってきた。ここのマスターとは旧知の仲で、席に座ると、何も言わずともブレンドコーヒーがスッと出てくる。言葉は交わさずとも心通じ合う、「阿吽の呼吸」ってやつだ。大人たるもの自分のカラーを持つことが大切だ。それは私の場合はブラックだと考えている。年齢を重ねると、不思議なことにネイビーですらあまり似合わなくなってきた。軽く聞いた噂話しなのだが、女性が憧れるメンズファッションの究極はタキシードなのだそうだ。ドレスコードという独特の様式美の下で成り立つ黒色のタキシードは、まさには男性ならではファッションなのではないかと思う。この年齢になってくると、フォーマルなものを身につけている方がしっくりとくる。どこか背筋をシャンと伸ばしていたいという深層心理の表れなのかもしれない。映画『007』の主人公、ジェームス・ボンドのようにワイルドさとエレガントさを兼ね備えた存在に憧れてしまうのだ。この愛用しているトートバッグの色も【NEW BLACK】。タキシードにだって合うオーセンティックさ宿していると思う。コーヒーを飲み終えたら、足早に会計を済ませて店を後にする。長居をするのは粋じゃないからね。早速、仕事場に戻り、最後の仕上げに取り掛かろうと思う。
photo Masahiro Yamamoto text TRYOUT